2016年08月30日
の足元に崩れ落ちた

「他の者たちも巻きこむ必要があると思うか」ガリオンの乾いた声がたずねた。
「その必要はないだろう。この二人にはわれわれが結集するだけの十分な容量がある」
「それではこの場で決めることにしよう」
「承知した」
そのとたんにガリオンは今までの拘束が解きはなたれるのを感じた。同じように解放されたらしいトラクもまた憎しみに歯をむき出して、クスゥレク?ゴルをふりかざした。
二人の戦いは大規模なものだった。巨大な力が互いの一撃をかわしあうたびに、周囲の岩は粉みじんに砕けた。リヴァ王の剣がひと振りされるたびに青い炎がはなたれ、トラクのクスゥレク?
ゴルの刃がはらわれるたびに黒い影があらわれた。もはや思考や感情などいっさい関係なくひたすら憎悪につき動かされるまま、二人は激しく剣を交わし、相手の切っ先をなぎ払った。両者がよ
ろめくたびに足元の廃墟が次々に崩れ落ちていった。闘争が続くにつれ、さまざまな自然現象もまた一気に噴出した。風は崩壊しかけた街の上を吹きすさび、朽ち果てた岩々を揺るがした。二人
のまわりを稲妻が飛びかい、鋭い閃光を発しながらまたたいた。大地はかれらの巨大な足の下でうなり声をあげて揺れ動いた。〈夜の都市〉を五千年もの長きにわた窩輪ってその黒いマントで隠し続
けてきた雲は、わきたち、流れはじめた。波打つ雲のあいまに巨大な星空の一片があらわれては消えていった。人間やそれ以外の姿のグロリムたちは、突如としてかれらのどまん中に出現した巨
人たちの闘争に、恐怖の悲鳴をあげて逃げ去った。
ガリオンの攻撃はもっぱらトラクの視力のおよばぬ方に向けられた。炎に包まれた剣が振りおろされるたびに、〈暗黒の神〉は燃え上がる〈珠〉の威力にたじろいだ。だがクスゥレク?ゴルの
闇をかわすたびに、ガリオンの血管には凍るような冷気が送りこまれるのだった。
ガリオンが思っていたよりも、両者の力は互角だった。体格に勝るトラクの利点は二人が巨大化したことで消えていたし、ガリオンの経験不足はトラクの肉体的欠陥で補われていた。
ガリオンをあざむいたのは足元のでこぼこした地面だった。突如相手が連続してくり出してきた攻撃を避けようと、一歩しりぞいたとたん、かれの一方のかかとが積み重なった石に当たるのを
感じた。そのとたんもろい石はこなごなに砕けてかれ。足を取られまいと必死に態勢をたてなおしたかいもなく、かれはどうと倒れた。
トラクはひとつしかない目を輝かせて黒い剣をふり上げた。だがガリオンはとっさに両手でつか[#「つか」に傍点]を握りしめ、相手の巨大な攻撃を受けとめるために炎の剣を構えた。ふた
つの剣の刃と刃が激しく衝突した拍子に火花がガリオンの上に雨あられと降りかかった。
トラクは再びクスゥレク?ゴルを振りあげた。とたんに鋼の仮面に奇妙な渇えた表情が浮かんだ。「わたしに従え!」神が吠えるような声をあげた。
ガリオンは立ちはだかる巨大な姿を見つめながら、必死に頭をはたらかせていた。
Posted by noisy at
11:26
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