2016年08月23日
をやめさせようと

「まったくおまえさんの性癖ときたら、わしがこれまで出会ったなかで一番悪質だぞ」
「わかってますよ」シルクは答えた。「だからこそやめられないんじゃありませんか。まったくわれながらどうしようもない性癖でね。ところでいつ頃になったら森らしきものに出会えるんです
か?」
「あと数日はかかるだろう。われわれはまだ森林限界から離れたところにおるのでな。この場所は木が育つには夏が短く、冬が長すぎるのだ」
「それにしても恐ろしく退屈な場所じゃありませんか」シルクはどこまでも同じように続く草の起伏を眺めながら言った。
「このような情況なら多少の退屈さには耐える方をわしは選ぶな。もう一方の可能性はさほど愉快なものでもないぞ」
「確かにそうですね」
一行はなおもひざ丈ほどもある灰緑色の草を踏み分けるようにして進んだ。
再びガリオンの内部でささやきが始まった。「わが声を聞くがいい。〈光の子〉よ」そのひとことは、これまでのはっきりしないざわめきの中でひときわ鮮明に聞こえた。そこには有無をいわ
せないような一種の強制力があった。ガリオンはさらによく聞くために耳をすました。
(やめておいた方がいい)おなじみの乾いた声がした。
(何だって?)
(やつの言うことなど聞く必要はない)
(やつって誰だ?)
(むろん、トラクだ。いったい誰だと思っていたのかね)
(それじゃ、もう目覚めたのかい?)
(まだだ。完全に目覚めたわけではない――だが、もう眠っているわけでもない)
(いったいかれは何をしようというんだろう)
(おまえに働きかけて、やつを殺すのしているのだ)
(でもトラクはぼくのことなんか恐れちゃいないはずだ)
(むろんやつだって恐ろしいのさ。トラクといえど、これから何が起こるのかまったくわからないのだ。おまえがやつを恐れているのと同じくらい、やつも恐れているのだ)
そのひとことでガリオンの心はたちまち軽くなった。(今度あれが聞こえてきたらどうすればいい?)
(別にたいしたことはできん。ただやつの命令に従うことだけは避けた方がいい)
三人はいつものように、二つの丘に囲まれた人目につきにくい窪地に野営した。そしていつものように居場所を知られないために、火を焚かなかった。
「そろそろ冷たい夕食は飽きてきたな」シルクは干し肉のひと切れを噛みしめ、ぐちをこぼした。「この牛肉ときたら、おんぼろの革を噛んでいるみたいだ」
「あごを丈夫にするにはうってつけだろうが」ベルガラスが言った。
「ときおり、あなたがじつに鼻持ちならない老いぼれに思えるときがありますよ」
Posted by noisy at
11:55
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